仕事に復帰した。
家にいても、涙は出なくなった。
気持ちも少しずつ落ち着いてきた。
そんなふうに回復の兆しが見えてきた矢先、
ふとしたことでまた心が重くなる瞬間があります。
「また戻ってしまうんじゃないか」
「やっぱり私はダメなんだ」
そんな不安や自己否定の波が押し寄せてくることは、決して珍しいことではありません。
実は、“回復したあと”こそが、心とどう付き合っていくかの本当のスタートなのです。
こんにちは。
心理カウンセラーの飯田恒幸です。
適応障害に悩まれている方とお話しする中で、私がいつも心に留めていることがあります。
それは、「良くなること」と「元に戻ること」は、同じではないということです。
調子が上向いてきたあとに、また心が重くなる。
「せっかく回復したと思ったのに…」と自分を責めてしまう。
そんな声を、これまで何度も聞いてきました。
でも、私はこう考えています。
適応障害の回復とは、“治す”ことではなく、“整えながら生きていく力”を取り戻していくこと。
今回は、「再発を防ぐ」というテーマで、心の健康をどう保っていけばいいのか。
カウンセラーとしての実感を込めて、綴っていきたいと思います。
回復=ゴールではない
適応障害は、ある特定のストレスに対して、
心と体が耐えきれなくなって反応を起こしてしまう状態です。
そのため、多くの場合は原因から離れることで一時的に症状は落ち着きます。
ただし、根本的な「考え方のパターン」や「心のクセ」がそのまま残っていると、
似たようなストレスに再びさらされたとき、同じように心が疲弊してしまうことがあります。
私のカウンセリングでは、
「表面の不調が落ち着いても、心の奥にある“頑張りすぎてしまうクセ”には、もう少し丁寧に向き合っていきましょう」とお伝えしています。
“変化”に気づける力が、再発を防ぐカギ
実は、心がまた不調に傾いていくときには、必ず何かしらの“サイン”が現れます。
たとえば、
◦ 朝、起きるのがいつもよりつらい
◦ 人と会うのが億劫になってきた
◦ 些細なことで涙が出る
◦ 怒りっぽくなる
◦ 「なんとなく体が重い」と感じる日が増えている
◦ 食欲や睡眠に変化が出てきた
こうしたサインに、早めに気づいてあげることが何より大切です。
まるで天気の変化に気づくように、自分の“こころの天気”にも意識を向けてほしいと思います。
「小さなセルフケア」
私自身、看護師として多くの方の回復過程に寄り添い、カウンセラーとして心のしくみを学んできました。
その経験から、心を整えていく上でとても効果的だった“ちいさな習慣”をご紹介します。
今回は、実際に私のカウンセリングで取り組まれた方々のエピソードも交えてお伝えします。
①「何もしない時間」を、ほんの5分でもいいからつくる
(ケース:40代・会社員のAさん)
Aさんは、毎日残業続きで「家に帰っても頭が休まらない」とおっしゃっていました。
そこで提案したのが、“何もしない時間”を意識的に取ること。
スマホもテレビも消して、リビングの灯りを少し落として、5分間だけ深呼吸。
「最初はそわそわして落ち着かなかったけど、ある日、急に涙が出てきて、ああ、自分ずっと我慢してたんだって気づきました」
と話してくれました。
この5分が、自律神経を整え、心を休めるための大切なリセット時間になったそうです。
②感情に“名前”をつけてあげる
(ケース:30代・子育て中のSさん)
小さなお子さんの子育てとパート勤務で毎日忙しいSさん。
「モヤモヤするけど、何にイライラしてるのかわからない」と言われていました。
私が提案したのは、「今どんな気持ち?」と自分に問いかけて、言葉にしてメモすること。
ある日、「さみしさ」「助けてって言いたかった」と書いたときに涙が出たそうです。
「怒ってたと思ったら、ほんとは“わかってほしかった”だけだったんですね」
そう気づいたとき、Sさんはご自身にやさしくなれるようになりました。
③「がんばったこと日記」をつけてみる
(ケース:50代・パート勤務のTさん)
「今日は何もできなかった」と自分を責める日々が続いていたTさん。
私から「できなかったことではなく、“できたこと”に目を向けてみませんか?」と提案しました。
ノートに「朝ちゃんと起きた」「洗濯物をたたんだ」「昼に散歩に出た」と書き出していくうちに、
「意外と、私ってちゃんとやってる」と笑顔が戻ってきました。
それは、小さな“がんばり”を、自分自身が見つけてあげる練習でした。
「小さなこと」の積み重ねが、再発予防の土台になる
こうしたセルフケアは、どれも簡単に見えるかもしれません。
でも、「自分のこころに気づき、手を差し伸べる」行為そのものが、
再発を防ぐための大切な土台になると私は感じています。
誰かに認められなくてもいい。
自分だけは、自分の気持ちに気づいてあげる。
それができるようになると、心は少しずつ回復の力を取り戻していくのです。

無理をする前に、少しだけ心を休ませてみませんか?
ご相談はオンラインでも承っています。
あなたの気持ちに寄り添いながら、サポートいたします。